―――

車の中で暴言・暴力を振るわれた時、その状況から逃げたいという一心で道路に身を投げた時の、クラクションの音を今でも覚えている。

藁にもすがる思いで見ず知らずの人に助けを求めた時の、薄ら笑いを浮かべた冷たい視線を覚えている。

だが同時に、そうして私を追い込んだ彼らの絶望も知っている。

暴力で育った者の愛し方を知っている。絶望の中で育った者の救いへの執着を知っている。知的障害の境界線にいた者の、その後の結末を知っている。

食べる物がなくて盗みを働いていた少年の今を知っている。自分の愚かさを自分ではどうにも出来ない幼さを知っている。

そして何より、本当に救いが必要な人は、人が救いたいと思うような形態をしていないことも知っている。

私も彼らも、天使と呼ぶに相応しい純粋さを持って生まれて来たのだと思う。

だが自分の背丈や年齢よりも大きな絶望にいとも簡単に翼はもげてしまう。

私には人を断罪する権利もなければ、善悪を図る裁量もない。

そこまで強くも弱くもない。どこまでいっても救わなかったことへの自責はつきまとい、福祉なんていうほんの心ばかりの罪滅ぼしをしながら私は生きていくのだと思う。

不思議なことに『天使たち』を観ると、その惨めさから解放される。

最近は考えるのをやめた。考えることは楽しいけど考えない方が楽だから。

私には天国も地獄もない。

ただなんとなく死にたいと思いながら、ただなんとなく楽しいことをして、繰り返して、やり直して、彼らの幸せを祈るだけ。

ナイマ、本当にありがとう。映画を作ってくれて。

楽になれたよ。

―――

2025.03